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名瀬の町を歩いていると、一日で何匹もの猫に遭遇した。

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猫は警戒心が強い動物だが、奄美の猫は人に慣れている猫も多く、この写真のように足に体を寄せてくる猫もいた。猫を撫でている男性がいたので「この猫飼われているんですか?」と尋ねたら、「飼ってはないけど、よくエサをあげてるから懐いているんだよ」と言っていた。飼い猫だけではなく野良猫も地域の人々に可愛がられながら暮らしている様子が見られた。

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奄美は気候が暖かいこともあってかドアを開けたままにしている家が多く、猫は家の中と外を自由に行き来しているようだった。

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三味線教室の様子。ドアは開けたままで教室の中にはキャットフードが置かれていて、猫が好きなときに帰ってきてご飯を食べれるようになっていた。

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「あまみのさくらねこ病院」の窓に貼ってあった新聞・雑誌記事。地域の人々に可愛がられながら自由に暮らしているように見える奄美の猫だが、奄美大島では現在猫の殺処分が大きな問題となっている。環境省と地元行政は2018年7月17日から「ノネコ管理計画」を開始した。この計画は奄美大島のノネコを1年間で300頭、10年で3000頭駆除するという計画で、捕獲されてから1週間以内に譲渡先が決まらなければノネコは殺処分されてしまう。1週間というかなり短い期間設定に加え、鹿児島県が運営している、迷子犬や迷子猫の情報を載せているサイトでの写真の公開や里親募集は一切ない。さらに譲渡希望者には「納税証明書、所得証明書、家の見取り図、身分証明書等」の提出が義務付けられていて、捕獲された猫が生き延びられる条件はかなり厳しくなっている。
なお、環境省によると、人間からえさをもらったり捨てられたものを食べたりするのが「野良猫」で、野生動物だけを捕まえて食べている猫を「ノネコ」と区別しているらしく、今回の計画で捕まえるのは「山の中に生息して野生動物を捕って生きているノネコである」というふうに説明している。動物愛護法では野良猫でも「愛護動物」とみなし、みだりに殺したり傷つけたりすれば2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。野良猫の殺処分をしている自治体もあるが、駆除を目的とする野良猫の捕獲に法的な根拠があるわけではない。一方、「ノネコ」は鳥獣保護法で有害鳥獣として駆除できる野生動物とされているが、野良猫とノネコの間に法令による明確な線引きはない。見た目も変わらないため、奄美では実際飼い猫や地域猫、さくらねこも森に入りノネコとまちがって捕獲されている。

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奄美大島にはアマミノクロウサギという、奄美大島と徳之島にしかいない希少動物が生息している。研究者の調査によるとその数は減少傾向にあることがわかっていて、確認できた死因のうちで一番多かったのが交通事故で、その次がイヌ・ネコによる捕食であるというデータが出ている。2000~2017年に確認できたアマミノクロウサギの死体743体の死亡原因を環境省が調べたところ大半は原因不明で、交通事故が25・7%。猫など肉食動物に殺されたと断定できたのは11・2%だった。

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奄美ネコ問題ネットワーク(ACN)が作成した資料。奄美ネコ問題ネットワーク(ACN)は活動の一環として島内の小中学校で島の自然環境や希少な野生動物の生息状況、猫が引き起こす問題について授業を行っている。資料内の写真には猫がアマミノクロウサギをくわえている様子が写っている。

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奄美の猫の殺処分には、環境省や鹿児島県が奄美群島の世界自然遺産への登録を目指しているということが背景がある。奄美大島は徳之島、沖縄島北部、西表島とともに世界自然遺産の登録候補地となることが2013年1月に決まり、現在2020年の登録を目標としている。候補地である「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナなど(国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの)絶滅危惧種86種を含む動植物が生息している、生物多様性という点を世界遺産の価値としてアピールしてる。なかでも奄美大島にはアマミノクロウサギという、奄美大島と徳之島にしかいない希少動物が生息している。環境省と鹿児島県、奄美大島の市町村は、奄美大島のノネコの捕食によりアマミノクロウサギが減少することが、世界自然遺産登録を妨げる大きな要因のひとつであると考えている。つまり奄美大島では、固有種であるアマミノクロウサギを守るために猫を大量に殺処分する計画が始まったということである。しかし、猫を大量に殺処分してアマミノクロウサギを守るという行為は、ユネスコの理念(多様性の尊重、非排他性)に反していてむしろ世界遺産登録から遠のくのではないかという声も上がっている。

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バスの側面には、「世界遺産候補地」という文字とともにアマミノクロウサギがマスコットキャラクターとして描かれていた。バスだけでなく、名瀬市のいたるところでアマミノクロウサギの写真やイラストが使用されており、アマミノクロウサギは奄美大島のシンボル的な存在として扱われていると感じた。

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ノネコ管理計画の発表を受けて、公益財団法人である「どうぶつ基金」は、殺処分される猫を減らすことを目標として「あまみのさくらねこ病院」という無料不妊手術病院を2018年8月15日に奄美大島にオープンした。どうぶつ基金は環境省・地元行政が開始したノネコの捕獲・殺処分について、猫を減らす上でなんの効果ももたらさないとの見解を述べている。残ったノラ猫、不妊手術をしていない飼い猫はどんどん繁殖をつづけていき、あらたに生まれてくる猫たちを、これから先も延々と殺処分しつづけていくというのは、あまりにも無意味なことであると主張し、不妊手術事業を始めた。

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どうぶつ基金は現在奄美大島でTNR(Trap Neuter Return)という事業を行なっている。これは、野良猫や飼い猫を対象に無料で不妊手術を行うという事業である。これまで竹島、石垣島、徳之島、沖縄などでも行われてきた事業であり、徳之島では2016年までに95%以上の猫が不妊手術済になった。

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不妊手術を終えた猫は耳をカットし、一目で手術済みということがわかるようにすることで再度捕獲されたり麻酔されたりするリスクを回避している。カットされた耳が桜の花びらの形に似ていることから、不妊手術を受けて耳をカットされた猫を「さくらねこ」と呼ぶ。オスが右側、メスが左側の耳をカットすることになっている。したがって、写真の猫はオスである。


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確かにこの方法なら、猫の繁殖を防ぐことで将来的に殺処分される猫を減らすことができる。しかし、不妊手術を受けた猫はその猫一代限りの命であり、子孫を残すことはできない。人間の都合によって生殖機能を奪われたという言い方もできる。

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外部の人間からすると猫がたくさんいる奄美の光景は、地域の人々に可愛がられながら猫たちが自由に暮らしてる、という幸せな風景に見える。しかし、実はそこには世界遺産登録や自然保護という名目で猫が殺処分されたり、不妊手術されたりという問題が存在していることが分かった。アマミノクロウサギを守るために猫を殺処分することや、猫が増えないように不妊手術をすることを、正しい、正しくないと断言するのは難しい。ただ、「自然保護」や「環境保全」という言葉を無条件に良い行いだと考えるべきではないと感じた。ある一つの自然を守るために別の自然、別の命が犠牲になっている場合もあるということを今回のフィールドワークで学んだ。